ウィリアム・ホルマン・ハント 「Female Nude - Study from behind」
クロッキー、スケッチ、デッサンの3つの言葉は鉛筆を使った絵の練習というイメージでよく似ていますが、意味合いや目的が異なるので整理してみます。
この記事で説明する項目の一覧です。
1.クロッキー、スケッチ、デッサンの概要 |
それでは個別に解説していきます。
1.クロッキー、スケッチ、デッサンの概要
①クロッキー
[croquis(フランス語)]
クロッキーは速写。一枚3~10分間程度で描きます。
細かい部分より全体の形とバランスを掴む練習になります。
②スケッチ
[sketch(英語)]
風景や人物を大まかに写し取ること。写生。
「小学生のスケッチ」という言葉のからすると屋外のイメージですが、室内でスケッチも十分にありえます。
かける時間の長さとしてはクロッキーとデッサンの中間です。
着色を前提とすることが多いのが他の2つとの大きな違いです。
③デッサン
[dessin(フランス語)]
デッサンは対象物を正確に描き写すこと。素描(そびょう)。
対象物の形状、明暗、表面の凹凸、質感を正確に表現すべく時間をかけて描くこと。
それ自体を作品、完成形とすることもあれば、彩色(着色)の下絵とすることもあります。
2.クロッキーの目的と効果
全体の形とバランスを掴むのを目的とした線画です。
陰影を付けている暇はなかなかありません。
3~10分間程度で描くのが一般的ですが、アプリなどを使って、もっと短い30秒~1分間で人物だけをいろんな角度から描くこともできます。
毎日数ポーズを描くのを3ヵ月ほど続けていると、見なくても記憶である程度は描けるようになるし、描いたことのないポーズも想像で描けるようになります。
体が覚える感覚です。
そして他人が描いた人物画を見た瞬間に、手足や首が長すぎ(短すぎ)、頭の大きさが変、性別と体つきが一致してない、全体的にバランスが悪いなどと(自分の実力を棚に上げて)ツッコミを入れたくなってしまうことがあります。
観察眼が確実に上がるからです。
上達したいなら避けては通れない、というか必須の練習法です。
3.スケッチの目的と効果
使う時間的にはクロッキーとデッサンの中間です。
では時間と描き込みの量だけで呼び名が決まるのかというとそうとも言えず、一番の違いはスケッチは彩色(着色)を前提するのが多いことです。
デッサンでも彩色は有りえますが、下絵とする場合に何時間もかけて細密に(精密に)鉛筆で描いても、どうせ塗りつぶされるので意味が希薄になってしまいます。
クロッキーとスケッチとデッサンの明確な線引きはなく、あいまいさがあるものの、デッサンを外出先でするというのは違和感があります。
(クロッキーは外だろうが屋内だろうが、短い時間で写すならクロッキーと呼んで間違いないようです)
よって描く時間、場所、彩色を前提とするか否かで言葉を使い分ければいいでしょう。
一方、プレッシャーという心理的な側面から見てみましょう。
クロッキーは時間に追われ、デッサンは厳密な正確さが要求されます。
一番気楽なのがスケッチです。
美しい、面白いと感じたものをリラックスして描けるのがスケッチのよさであり、目的といえます。
4.デッサンの目的と効果
デッサンも解釈の幅がある単語ですが、鉛筆や木炭でじっくりと描き込み、美大受験の必須科目というイメージは多くの人が持っているのではないでしょうか。
デッサンの目的は観察力、空間把握力、描写力、表現力の向上などが挙げられます。
観察したい要素としては形、大きさ、陰影、質感、空間上の配置と奥行きなどがあります。
そして最も鍛えたいのは自己批判力。
人間は自分に甘いのです。
何時間もかけて、既に細かい部分まで描き込んだデッサン、なかなかいい出来栄えではないかとご満悦したとします。
それが一夜明けてみると、違いに気づいてしまう。
大手術が必要という場合もあります。
(石膏デッサンの場合、頭の中心を通る軸がズレているとか最悪です)
そんなとき、人間は弱いんです。
つい気づかないフリをしてしまう。
そこそこいい出来ではないかと。
そこで見なかったことにするか、ちょこちょこ微調整でごまかすか、練り消しゴムで大胆にザックリと消してしまえるか……、ココが分かれ目です。
ただし初心者のうちは、あまりしつこく向き合うと煮詰まってしまうので、いったん完成にして、日を置いて別の紙で再チャレンジするのをオススメします。
そうすれば新旧を比較できるので、自分の成長を実感できます。
自己批判力が高くなりすぎると自己否定と自信喪失にもなりかねないので、そこそこにすべきです。
絵は楽しんで描いてください。
補足
とにかく数を描けというアドバイスを実践するなら数分間で描けるクロッキーがオススメです。
クロッキーをさらに掘り下げて詳しく解説した記事もありますので、よかったらどうぞ。
→「クロッキーのやり方、練習のしかた、描き方のコツ」
(以上です)