アクリル絵の具は厚塗りすれば覆い隠せますので、水彩絵の具ほど下書きに神経質になる必要はありません。
ただしアクリル絵の具を全体的に「薄塗り」で使う場合で、なおかつ鉛筆で下書きをした場合、アクリル樹脂が邪魔して消しゴムで下書きを消せなくなる場合があるので注意が必要です。
下書きに使う画材は塗りつぶすなら何でもいいですが、木炭は粉がアクリル絵の具と混ざってしまい、濁ってしまうので使わないほうがいいでしょう。
この記事で説明する項目の一覧です。
1.下書きは線のみで十分。陰影は不要 |
それでは個別に解説します。
1.下書きは線のみで十分。陰影は不要
どこまで下書きで完成作品のイメージに近づければいいのかと悩む人もいるかもしれませんが、画面全体を厚塗りする場合、下書きはアクリル絵の具を塗ることで消えてしまうので、労力と時間をかけてしっかり描き込んでも無駄になります。
なので、下書きはあくまで下準備みたいなものと考えて、時間を割かずにさっさと塗り始めたほうが作業効率はよくなります。
下書きの線に関しても、精密なものや建物はしっかり描く必要がありますが、風景画や人物などは、あまり神経質にならずにほどほどの時間で切り上げて、それより塗る時間に多くを割り当てるようにしたほうが集中力も消耗せずに済みます。
2.薄塗りの場合、下書きが消せなくなる
水彩絵の具みたいに画面全体を薄塗りする場合、鉛筆で下書きした上に薄塗りすると、アクリル樹脂のフィルムを貼り付けた状態(カバーをかけた状態)になるので、消しゴムでは下書きを消せなくなる場合があります。
水彩絵の具の場合、鉛筆の下書きは消しゴムで擦ればまだ消せますが、アクリル絵の具の場合は難しいと覚えておいてください。
3.薄塗りの下書きを消すタイミングは2通り
重ね塗りして下書きを消す予定があれば神経質にならなくてもいいですが、薄くて下書きの線が透けて見える可能性が残る場合は、下書きを消すことを前提に塗る必要があります。
薄塗りする場合、下書きの線を消すのは以下の2通りの方法があります。
①塗る直前に下書きを消す
②下書きの線に沿って、1mmほど外側を塗り、塗った後に下書きを消す
どちらがいいかはケースバイケースですので一概には言えませんが、正確な下書きが必要な場合や、直線を引く必要がある場合は②のほうが使い勝手がいいはずです。
4.厚塗りの場合、鉛筆または補色がオススメ
厚塗りでアクリル絵の具を塗るなら、ボールペンでも油性マジックでも好きな画材で下書きできます。
ただし水溶性のものは溶け出して色が混ざるかもしれないので、使わないほうがいいでしょう。
塗りつぶすのに、わざわざ油性マジックを使う意味も思いつきませんので、鉛筆で十分ではないでしょうか。
鉛筆では隠れて見えにくくなると思える場合、画面全体の色の補色(色相環の反対側の色)で下書きをするという方法もあります。
アクリル絵の具は透明、半透明の色が多く、一度塗りなら厚塗りをしない限り、下の色が透けてみえることが多いので、補色であれば目立ちやすくなります。
あまり太い筆ではなく、細い筆で薄めに下書きをし、周りを見ながら少しずつ重ね塗りをして、下書きの線を見えなくするといいでしょう。
5.下書きが不要な絵もある
すべての絵に下書きが必要な訳ではありません。
抽象画、とくに自分の心情を表す絵のときはインスピレーションに従い、ある程度のスピードと勢いをもって描いたほうが素直な表現になります。
下書きをすることで左脳が出しゃばって、理屈っぽい絵になってしまうかもしれません。
さらに言えば、下書きをせずにいきなり色を乗せていくアラプリマという技法が昔からあるくらいですから、迫力と勢いのある絵を描きたいなら、試してみてもいいでしょう。
ちなみにアラプリマというのはイタリア語の「一度で、一回で」という意味です。
油絵の具がすぐに乾かないという特性を活かして、一気に描き上げ、即興性や筆致、インスピレーションを重視する描き方です。
人物画をアラプリマで描きあげる人の制作過程は見ていて惚れ惚れします。
アクリル絵の具は速く乾きますが、厚塗りなら多少遅いですし、どんどん色を乗せていけるので修正も容易です。
人物画をアクリル絵の具でアラプリマで描いている方もいます。
神経質に精密な下書きをしても、重ね塗りしているうちに「どうせ見えなくなる」と割り切ってしまえば、初心者の方がアラプリマで描くのも決して無謀ではありません。
かえって面白い作品になるかもしれませんよ。
6.裏ワザ:擦って消せるペンで下書き
フリクションペンは、ペン先とは逆のほうについている専用ゴムで擦ると、書いたインクが消えるボールペンです。
文房具メーカーの株式会社パイロットコーポレーションが開発しました。
このインクは摂氏60度で透明になるように設定されているので、擦らなくてもドライヤーで熱を加えると消えてくれます。
これを使えば、薄塗りで塗った後の下書きが消せないという事態を回避できます。
実際にやる前に、絵の具を塗る厚さなどのケースバイケースがあると思うので、別の紙で試すことをオススメします。
補足
ここまで下書きをいかに消すかという話をしといて恐縮ですが、わざと下書きを残す淡彩(たんさい)という方法もあります。
主に水彩画で使われる方法ですが、アクリル絵の具でも多めの水で溶いて淡く着色するのであれば可能です。
鉛筆スケッチに淡く、薄く着色するという感覚です。
塗り絵ではないので、わざと塗り残しを作ってもOKです。
余白を楽しんでください。
鉛筆の線を残すつもりで描くなら、もはや下書きではないですよね。
なので本文では触れずにココで書いています。
残すつもりで描くならボールペンでもいい訳です。
旅先、出張先、ちょっとしたお出かけ先でいい景色を見つけたら、メモ帳にささっとスケッチして、家で淡く着色しても面白いですね。
(以上です)