ギュスターヴ・クールベ「Landscape With Wall And Orchard」
スカンブルとは半透明の絵の具を重ね塗りすること。
下の色が乾いた後に、半透明の絵の具を不均等に擦るように重ねることで、微妙に下の色が透けて見える状態を作ることです。
この記事で説明する項目の一覧です。
1.スカンブルの概要 |
それでは個別に解説していきます。
1.スカンブルの概要
半透明の色を重ね塗りすることで、下の色を活かしつつ、複合的な色にしたり、境目をボカシたりする技法です。
油絵の具、アクリル絵の具、アクリルガッシュなど重ね塗りできる絵の具で可能な技法になります。
水彩絵の具やポスターカラーは乾いた後にしつこく重ね塗りすると下の色が溶け出してしまうので、全くできないことはないけど、難しくなります。
2.グレーズ(グレンジング)との違い
グレーズ(グレンジング)と似ていますが、グレーズは透明の絵の具を重ね塗りすることで下の色と複合的な色合いを表現するものになります。
色の違うカラーフィルムを重ねたときの色の混合に似ています。
これに対し、スカンブルは半透明の絵の具を塗り重ねるので、下の色が透けて見えるのは限定的であり、完全に覆い尽くさないようにした色の乗せ方の技法といえます。
3.スカンブルには2種類ある
①半透明の絵の具を覆うように重ねることで、微妙に下の色を活かすもの
②下の色を完全に覆い尽くさないように一部だけ塗って、共存させてブロークンカラー(色彩混合)を狙うもの
もう少し詳しく説明します。
①下の色を微妙に活かすもの
半透明の色を覆うように塗る方法です。境界線をボカシたいときに便利な方法です。
例えば煙やモヤ、朝霧が一部にかかった状態などを表すとき、その境界線をクッキリ描いてしまうと不自然になるので、下の色も活かしつつ煙などの色を乗せると自然な感じになります。
煙などは周縁部だけでなく、上側の部分も所々向こう側が透けて見えると、より自然に見えます。
②ブロークンカラー(色彩混合)を狙うもの
半透明の色を一部だけ、もしくは点々と塗る方法です。
色彩混合は、スーラの点描を思い出してもらうと分かると思います。
複数の原色を使った点画を描いても、離れて見ると原色が混じり合ったような混色された色に見えます。
視覚混合ともいいます。
印刷の技術も同じです。グラデーションのかかったオレンジ色を印刷したいとき、赤のインクと黄色のインクを混ぜて何種類も作って印刷しているのではありません。
赤なら赤の版を作って、まず赤だけで印刷し、次に黄色の版で黄色だけで印刷します。
顕微鏡で拡大するとインクの乗ったドット(点)はそれぞれ赤や黄色のままですが、離れて見るとオレンジ色に見える訳です。
赤のドットが多いところは赤っぽいオレンジ色、黄色のドットが多いところは黄色がかったオレンジ色になる訳です。
話をスカンブルに戻します。
岩や土壁や青空など、単一の色でベタッと塗ってしまうと面白みがないと感じられるときにスカンブルが使えます。
例えば、本物の岩肌は単一の色ではないはずで、さらに光と影と凹凸で複雑な色になっているはずです。
岩肌などをまずはベースとなる色で塗って、乾いた後に類似した色を擦りつけるように何箇所か塗ると、より本物に近い質感が表現できます。
4.水の量によっても2種類に分けられる
ギュスターヴ・クールベ「穏やかな海」
アクリル絵の具を溶く水の量でも2種類に分けられます。
1)多めの水で溶いた絵の具で塗る
2)ドライブラシに近いごく少量の絵の具で塗る
要は薄い絵の具で塗るか、絵の具がかすれるくらいカッサカサの筆で塗るかの違いです。
半透明なので、下の色を完全に覆い尽くさないのがスカンブルですから、あまり厚く塗らないほうがより自然な質感に近づけます。
ケースバイケースですので一概には言えばせんが、ドライブラシに近い状態で描いたほうが、下の色を活かせることのほうが多いのではないでしょうか。
まとめ
この記事で説明した項目を再度載せます。
1.スカンブルの概要
2.グレーズ(グレンジング)との違い
3.スカンブルには2種類ある
4.水の量によっても2種類に分けられる
3のスカンブルの2種類は、半透明のフィルムで覆うイメージのと、部分的に塗って色彩混合を狙うものでした。
4の2種類は、多めの水の量で溶いた半透明のアクリル絵の具で塗るものと、普通の水の量で溶いた絵の具をごく少量しか付けていないドライブラシに近い筆で塗るものでした。
一般的にはスカンブルはグレーズみたいにベタ~ッと半透明の色を均等に塗るのをイメージしていた方も多いと思います。
半透明のフィルムをかぶせる感じですね。
その一方、点描みたいに部分的に塗ったり、カッサカサの筆で塗ったりするのはスカンブルの応用編といえるかもしれませんね。
ベタ~っと塗るのを透明か半透明かで技法の名前をわざわざ分ける必要もないと思うので、和名である「擦りぼかし」のイメージにより近い、カッサカサの筆で部分的に重ね塗りして下の色を活かすというのも覚えておくと便利ですよ。
補足
ここまで描いてきて言うのも何ですが、実際に絵を描く人は、描いている途中に「自分は今、スカンブルをしている」と意識してはいないと思います。 ^^;
より本物の色、質感に近づけるというほうに集中しているので、それがスカンブルだろうが、グレーズだろうが、どっちでもいい訳です。
スカンブルという名前を知らずに、使っていたという人も多いと思います。
でもやはり、一通り塗り終えて離れて見たとき、この部分の質感に深みが欲しいなと感じることもあるでしょう。
そんなときにスカンブルを知っていれば、「あ、使ってみよう」となるかもしれません。
重ね塗りの技法はいつくもあるので、名前がごっちゃになって混乱している人は一覧にした記事も書いたので、そちらも参考にしてください。
※参考記事:「重ね塗り技法の名前の整理 全9種類」
(以上です)