※赤い下地の上に、透明な黄色を重ねることで、オレンジ色になるイメージ
グレーズ(グレージング)とは下の色を活かした重ね塗りのことです。
透明の絵の具をうすく重ね塗りすることです。
グラッシと言ったりもします。
下の色が乾いた後に、透明の絵の具を薄く重ねることで、下の色が透けて見える状態を作ることです。
油絵の具、アクリル絵の具など重ね塗りできる絵の具で可能な技法になります。
水彩絵の具やポスターカラーはできなくはないけど難しいです。
乾いた後でも、しつこく重ね塗りすると下の色が溶け出してしまうからです。
アクリルガッシュは重ね塗りできますが、透明色がないので向きません。
輪郭をぼかすときや、色に深みを出したいときなどに使える技法ですので、この記事でグレーズの基本をぜひ押さえていってください。
この記事で説明する項目の一覧です。
1.グレーズの概要 |
それでは個別に解説していきます。
1.グレーズの概要
一言でいうと、下の色を活かした重ね塗りです。
うすく塗ることで下の色と上から重ねた色が光学的に混じりあい、深みのある色あいになります。
①グレーズできる色
グレーズのとき、上に塗る色は透明色か半透明色にしましょう。
アクリル絵の具の場合、透明、半透明、不透明と3種類あるので使い分けることが必要です。
例えば、リキテックスの白はチタンホワイトが不透明、ジンクホワイトは透明となっているので、グレーズしたいならジンクホワイトにしましょう。
同じくリキテックスの黄色はカドミウムイエローが不透明、イエローミディアムアゾが半透明、イエローライトハンザが透明となっています。
不透明の色をグレーズしたい場合、多めの水で薄く溶けばある程度は透明感が出るのでできなくはありません。
でも多めの水で溶くと、ムラになりやすいし、濁った残念な色になるので、あまりオススメしません。
やるにしても画面上にいきなり塗るのではなく、他の紙で試してからやってみるといいでしょう。
②グレーズの効果
セロファンなどの違う色のフィルムを重ねると、色が混ざったような状態になるのと効果が似ています。
例えば赤いフィルムの上に黄色を1枚重ねると、最初は黄色がかった赤にしか見えませんが、黄色の枚数を増やすと徐々にオレンジ色に近づき、あるときからオレンジ色がかった黄色になります。
上記は極端な例です。何度も重ね塗りしているうちに、下の色は透けなくなります。
うっすらと微妙に色の変化を付けるくらいの期待にしておいたほうが無難です。
グレーズはパレット上で最初から混ぜてオレンジ色を作るのとは全く違った色合いになります。
パレット上で混ぜるのを物理的な混色と呼ぶのに対して、グレーズは光学的な混色と呼ばれます。
色の深みや輝き、透明感は独特の美しさがあります。
2.下の色と、グレーズする色
1)透明感を優先したいとき
グレーズの効果を際立たせるために、下地は上に塗る色より、薄い色、明るい色にしたほうがいいでしょう。
下に濃い色、暗い色を塗って、その上に薄い色でグレーズしてもなかなか色みが変化しません。
ドライヤーで乾かして重ね塗りというのを何度も根気よく繰り返せば、やがては上の色との混合色になりますが、グレーズ本来の透明感は多層化により損なわれてしまいます。
やはり簡単なのは明るい色どうしのグレーズです。
下の色も上の色も明るいと、色の変化が分かりやすいし、光学的にも効果的です。
もし先に暗い色を塗った部分を重ね塗りで深みを出したいと思ったら、スカンブルという技法もありますので、そちらの記事も参照してみてください。
2)明度やトーンを落としたいとき
完成に近づいて全体とのバランスを見たときに、あるパーツが明る過ぎるときや派手な色みのとき、グレーズをすることで明度や色調(トーン)を落とすことができます。
広い面積や画面全体に施すときはグラシと呼ぶこともあります。
塗りたい部分がしっかり乾いたのを確認し、多めの水で溶いたやや暗め、落ち着いた色をパレットで作って塗っていきます。
個別にチマチマと塗らずに済むので楽ですが、いきなりは塗らずに他の紙などで試してからやったほうがいいでしょう。
3.グレーズのやり方、3種類
①透明な絵の具を重ね塗りする
一般的なグレーズのやり方がこれです。
一度の重ね塗りでやってしまおうとせず、やや水を多くして薄めに溶いた絵の具を何度も乗せるほうが、失敗の可能性を減らせます。
ドライヤーで乾かして、また塗るという作業を繰り返しながら、自分好みの色になったところでよしとする方法です。
ただし、あまりにも多くの水で溶いた薄すぎる絵の具を乗せると輪染み(わじみ)になるので気をつけましょう。
輪染みとは水滴をイメージしてもらうと分かりやすいですが、とても薄い絵の具を1滴だけ画面上に垂らした場合、乾いたときに周縁部の輪っかの部分だけ色素が残り、中心部は透明のままという状態です。
これを消すのはなかなか厄介なので、薄すぎる絵の具は使わないようにしたほうが無難です。
何度も練習しているうちに、これ以上薄めたら危険というレベルが分かってくるはずです。
②薄く溶いた絵の具を重ね塗りした後、拭う
これは重ね塗りした直後にティッシュか古布などで軽くさっと拭き取る方法です。
もたもたしていると乾いて取れなくなるので素早くやるのが大前提。
また、しつこく拭うと完全に無くなってしまうので、さっと拭くのがコツ。
薄っすらと色が残り、重層的な色合いになっているはずです。
もし変な色を乗せてしまった、失敗したとなったら、完全に拭った後、水で湿らせたテッシュなどで表面を拭くと、失敗はなかったことにできます。
これは下の色が完全に乾いたら耐水性になるアクリル絵の具の特徴で、ある意味、気楽に失敗できます。
ちなみに油絵の具の場合、完全に乾くには1~2週間かかるし、厚塗りした場合は最大2ヵ月もかかるので、グレーズに取りかかるまでの時間に大きな差があります。
油絵で何層も何層も重ねようと思ったら、気が遠くなるような時間が必要です。
③薄く溶いた絵の具を重ね塗りした後、指で伸ばす
重ね塗りした直後に指で適度にくるくる広げるように伸ばす方法です。
これも、もたもたしていると乾いて伸びなくなるので素早くやるのが大前提。
ある程度、均一に伸ばせたら、指紋を消すためにも筆で整えるなどしたほうがいいでしょう。
追記
ウィリアム・アドルフ・ブグロー
「ガブリエル・コット」
例えば顔を描くとき、明るい側の皮膚の薄い部分などに薄っすらと青を乗せると、静脈の色みが加わっているようで、よりリアルに見えます。
肌色の濃淡や明暗だけで顔を塗るのではなく、グレーズを使って、青の薄いフィルムを乗せるという感覚です。
機会があったら、試してみてください。
広い面積でヤリすぎると不健康そうになるので、ご注意を ^^;
まとめ
この記事で説明した項目の一覧を再度載せます。
1.グレーズの概要
2.下の色と、グレーズする色
3.グレーズのやり方、3種類
①透明な絵の具を重ね塗りする
②薄く溶いた絵の具を重ね塗りした後、拭う
③薄く溶いた絵の具を重ね塗りした後、指で伸ばす
グレーズは油絵の具やアクリル絵の具が得意とする技法です。
油絵の具は下の色が乾くのに時間がかかりますし、水彩絵の具はしつこく重ね塗りすると下の色が溶け出して濁ってきますし、アクリルガッシュは透明色がないので向きません。
アクリル絵の具が一番気楽にグレーズできるのではないでしょうか。
下に色と、上に重ねる色は、明るい色どうしが一番やりやすいし、効果的でもあります。
どちらかが暗い色のときはドライヤーで乾かしては塗るというのを気長に何度も繰り返しましょう。
透明色どうしを重ね塗りすることでフィルムを何枚も重ねたような光学的な混色ができます。
独特の光沢や色の深みをぜひ楽しんでください。
(以上です)