アクリル絵の具の基本

■展色材、バインダーって何ですか さらにアクリル樹脂エマルジョンって何?

2021年11月11日

展色材(てんしょくざい・バインダー)とは絵の具の原料の一種で、顔料(色素)を支持体(紙やキャンバスなどの画面)に固着させる接着剤です。

顔料は基本的に粉なので、それを水で溶けばとりあえず紙などに塗れますが、乾くとパラパラ落ちてしまいます。
そうならないように支持体に固着させるためものが展色材です。

 

この記事で説明する項目の一覧です。

1.絵の具別の展色材
1)アクリル樹脂エマルジョン
2)アラビアゴム
3)乾性油
2.ガッシュとアクリルガッシュについて
3.昔の展色材(バインダー)

 

それでは個別に解説していきます。

1.絵の具別の展色材

絵の具によって展色材は変わります。ざっと一覧にすると以下です。

1)アクリル絵の具= 顔料+アクリル樹脂エマルジョン

2)水彩絵の具= 顔料+アラビアゴム

3)油絵の具= 顔料+乾性油

 

それぞれの展色材をもう少し説明します

1)アクリル樹脂エマルジョン

アクリル樹脂はご存知のとおりプラスチックの一種です。
透明性と耐候性に優れており、窓材、建材を始め、ボールペンやコップ、自動車のヘッドライトカバー、深海探査艇や戦闘機の窓などにも使われています。

このアクリル樹脂を水に乳化させたものがアクリル樹脂エマルジョンです。

乳化というものは水に溶けにくいものを乳化剤によって液体化させることです。
身近な例ではマヨネーズです。
油は水と通常では混ざりませんが、卵黄に含まれるレシチンが乳化剤の役割をすることで均一に混ざるようになります。

アクリル樹脂エマルジョンは乾燥して水分が抜けると、アクリル樹脂が強固に結びつき、耐水性になります。
アクリル絵の具が乾けば重ね塗りできるのは、この性質によるものです。
またアクリル樹脂は透明度が高いので、顔料の発色を妨げないという特徴もあります。

 

2)アラビアゴム

マメ科アカシア属のアラビアゴムノキなどの表面を傷つけて、傷口から分泌される樹液の一種です。
アラビアガムともいいます。

すぐれた乳化安定性があり、絵の具の他、お菓子や食品などにも広く使われています。
吸水するとゼラチンのような、とろりとした糊の状態となりますが、乾燥するとベタつかずサラリとしているため、チョコレートやキャンディ、ガム、さらには薬の錠剤のコーティングにも使われています。
水を付けると糊みたいな粘性があるので切手にも使われています。

水彩絵の具は乾いた後に濡らすと、にじんでしまって重ね塗りが難しいのは、アラビアゴムの性格によるものです。
ただし、アラビアゴムは食品にも使われるくらいですから安全性は高く、小学生の絵の具の原料としても安心できる訳です。

 

3)乾性油

油絵の具の展色材として使われる乾性油とは、空気中に放置すると徐々に粘度が増して固化する性質の油のことです。

空気中に放置しても固化しない油は不乾性油と呼ばれ、例えばオリーブオイルや椿油などがあります。

乾性油は空気に触れて酸化することで固化します。
アクリル樹脂エマルジョンのように水が蒸発する訳ではないので、塗った後に体積が減るということもありません。
乾燥して萎むということがないので、安心して盛り上げるように塗れる訳です。
ただし、蒸発ではなく、酸化で固化するので時間がかかり、重ね塗りできるようになるまで薄塗りでも1週間、盛り上げた厚塗りだと2ヵ月くらいかかると言われています。

 

2.ガッシュとアクリルガッシュについて

不透明水彩絵の具(ガッシュ)とアクリルガッシュいうものがあります。
紛らわしいですが、単にガッシュと言うと水彩絵の具の一種を指し、アクリルガッシュと言うとアクリル樹脂を使ったアクリル絵の具の一種を指します。

ガッシュはGOUACHEというフランス語から来ており、語源はイタリア語の「水溜り、不透明水彩技法」といわれ、本来は絵の具の名前ではなく不透明水彩技法を指していました。

絵の具としてのガッシュの説明に戻します。

ガッシュとアクリルガッシュは展色材の割合を減らして、顔料の割合を増やしたものです。
このため下地の色の隠す能力が高く、ムラの無い塗り方が容易でベタ塗りに向いています。
イラストやデザインなど、あまりグラデーションを使わず、均一にベタッと塗りたいときに便利な絵の具です。

 

3.昔の展色材(バインダー)

油絵の具が発明される前、顔料を石灰水に溶いて生乾きの漆喰に塗ったのがフレスコ画であり、水と油を混ぜるための乳化剤として鶏卵の黄身を使ったのがテンペラ画です。

ラファエロ「アテナイの学堂」
ラファエロ「アテナイの学堂」(フレスコ画)

フレスコ画は一発勝負で修正がきかないというデメリットがあり、テンペラ画は卵を毎日混ぜなきゃいけないという手間がありました。

15世紀にヤン・ファン・エイクらによって油絵の具が発明(※)されてからは、両方とも廃れていきました。
しかし、フレスコ画は色の鮮やかさに魅了される人が多く、今でも制作している作家さんがいます。

※顔料に油を混ぜるという手法はファン・エイクのずっと前から存在していたらしいので彼の発明ではない、とする研究もあります。
しかし、普通に「使える状態」に改良したのは、彼とその兄フーベルト・ファン・エイクなので、もう発明と言って間違いないのではないでしょうか。

 

補足1
初心者の方で展色材にこだわっている人は少ないかもですね。
でもアラビアゴムは乾いても濡らすとまた軟化してしまうけど、アクリル樹脂は一度乾いたらもう水では戻らないので重ね塗りに向いているというのは覚えておくと便利ですよ。

補足2
ポスターカラーは不透明水彩絵の具(ガッシュ)の一種です。
展色材はアラビアゴムの場合もあれば、デキストリン(でんぷん)の場合もあります。
安価ですが耐久性に劣るので、長期保存を必要としないデザインなどの分野で使われており、ベタ塗りがしやすいのが特徴となっています。

 

               (以上です)

 

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