アクリル絵の具の基本

■重ね塗りをアクリル絵の具でするときの特徴やコツ、注意点など5選

2021年11月2日

重ね塗り、深み

アクリル絵の具は乾くと耐水性になるので、重ね塗りができます。
水彩絵の具やポスターカラーは乾いてもしつこく重ね塗りすると、下の色が滲んで色が混ざってしまいますので、ここが大きく違うポイントです。

初心者の方はアクリル絵の具のクセが分からず戸惑うこともあるかもしれませんので、重ね塗りする場合のコツなどを解説してみます。

 

※ちなみに、アクリル絵の具と他の絵の具を重ね塗りする場合や、アクリル絵の具の上に色鉛筆で着色する場合などは、別記事で解説していますので、よかったら見てみてください。
→「他の絵の具との併用、重ねる、混ぜるときの注意点など(後編)

 

この記事で説明する項目の一覧です。

1.普通の濃度では、一発で下の色は隠れない
2.何度も塗り重ねることで色に深みがでる
3.あえて違う色を下に塗ってからの重ね塗り
4.筆跡が残ると、なかなか消えてくれない
5.重ね塗りは油絵の具に比べたら、すごく楽

 

それでは個別に解説します

1.普通の濃度では、一発で下の色は隠れない

アクリル絵の具は色によって透明、半透明、不透明と分かれているので、重ね塗りできるといっても、透明タイプの色の場合、一度の重ね塗りでは下の色はなかなか隠れてくれません。
ちなみにアクリルガッシュは普通の濃度であれば(薄く溶かない限り)、ほぼ一発で下の色が隠れてくれます。

アクリル絵の具が一発で隠れてくれないのをデメリットと捉えるのではなく、下の色が透けて見えるので複雑な色合いを出せるとポジティブに捉えたら、いろいろ面白い表現や質感を出せるようになります。

一度の重ね塗りではムラなく塗るのも難しいので、10回くらい塗ってやるぞと開き直れば、そのうち慣れて気にならなくなります。
濃度にもよりますが、実際は3~5回も塗ればムラはなくなります。

 

2.何度も塗り重ねることで色に深みがでる

同じ色を塗り重ねるだけでも深みは出ますが、別の色を塗り重ねると、物理的な混色では出せない、光学的な混色ができます。

例えば、グレーズ(グレージング)という技法は、下の色が透けて見えるように乾かせた後で別の色を塗り重ねることです。
アクリル絵の具は色によって透明、半透明、不透明と分かれているので、グレーズの場合は透明タイプを使います。

ひとくくりに青といっても微妙に色みが異なり、ウルトラマリンブルーは透明、プルシャンブルーヒューは半透明というふうに分かれています。
黄色の下地の上に薄めに溶いたウルトラマリンをグレーズすると緑がかります。
黄色と青のカラーセロファンを重ねたら緑になるのと似ており、どちらかの枚数を増やすと、黄緑や青緑になります。
自分の好みで色をコントロールできる面白さもあります。

 

3.あえて違う色を下に塗ってからの重ね塗り

例えば、青空を塗るとき、最初から最後まで青で塗るのではなく、あえて赤とか黄色とかで下地を作っておいて、乾かした後でその上に青を塗り重ねて、青に深みを持たせるという方法もあります。

上記2.のグレーズは透けることを前提とした重ね塗りによる混色ですが、こちらは透けるか透けないかの境目くらいです。
完成した後は、とくに解説しなければ鑑賞者は青の下地に別の色を使っていたとは分からないでしょう。

なんでそんな手間をかけるのかというと色に深みを持たせたいからです。
これは水彩絵の具やポスターカラー、アクリルガッシュではなかなか難しい技法です。

 

4.筆跡が残ると、なかなか消えてくれない

平塗り(ベタ塗り)するとき、筆を押さえつけながら動かすと、船の航跡みたいに筆の通った跡の両端が盛り上がります。
川の両岸の堤防みたいな盛り上がりともいえます。

これは早めに撫でて平らにしないと、乾いてしまったら何度も何度も重ね塗りしない限り、目立ったままになります。
普通の濃度の場合、一度で塗る層は1ミリよりずっと薄い膜でしかないので、盛り上がり部分と同じ高さになるまで消すために塗り重ねるのは相当な回数になります。

 

5.重ね塗りは油絵の具に比べたら、すごく楽

油絵の下書きを鉛筆や木炭ではなく、油絵の具でする場合があります。
一通り描いて着色しようとしても、下書きの油絵の具が乾くまで1週間近く待たなくてはならないので、制作日数が伸びてしまいます。
また厚塗りした絵の具の上にグレーズを施す場合、長いときは2ヵ月も待たないと乾いてくれないことがあります。

その点、アクリル絵の具はドライヤーで乾かせば数分間で重ね塗りできる状態になります。
この特長を活かして、油絵を制作するときにあえてアクリル絵の具で下書きする人もいます。
最初から最後までアクリル絵の具で描く場合も手元にドライヤーがあると作業効率が上がります。
ただしものすごく厚塗りしたところをドライヤーで急激に乾燥させるとヒビ割れすることがあるので注意が必要です。

 

まとめ

この記事で説明した項目の一覧を再度載せます。

1.普通の濃度では、一発で下の色は隠れない
2.何度も塗り重ねることで色に深みがでる
3.あえて違う色を下に塗ってからの重ね塗り
4.筆跡が残ると、なかなか消えてくれない
5.重ね塗りは油絵の具に比べたら、すごく楽

アクリル絵の具は色によって透明、不透明、半透明と分かれるので、透明色の場合は何度か重ね塗りする必要があります。
それを面倒くさいと考えるのではなく、色に深みがでるとポジティブに捉えたら、表現の幅が広がります。

どうしても面倒くさいときは不透明のチタニウムホワイトを少し混ぜて重ね塗りすると、けっこう隠れてくれますので、その上に本来の塗りたい色をまた塗れば、覆い隠すという意味での作業効率は上がります。

重ね塗りするとき筆跡が残ると物理的な盛り上がりですので、後でなかなか消しにくくなります。
なめらかな画面にしたいときは、塗った直後に盛り上がりをならしておいたほうが、その後の作業が楽になります。

 

               (以上です)

 

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