ポール・セザンヌ「大きな松のあるサント=ヴィクトワール山」
素晴らしい風景を見たら、すぐにでも描きたいなと思うことはありますよね。
でも構想を練らずに勢いで描いても、なかなか伝わないものですし、描いている本人がアレ?こんなはずじゃ……と気づくことは多いはずです。
こういうことがないように風景画を描く前の準備として何をしなければいけないかをまとめてみました。
この記事で説明する項目の一覧です。
1.なぜその風景を描きたいと思ったのか |
それでは個別に解説していきます。
1.なぜその風景を描きたいと思ったのか
①描きたいと思った動機
大切なので最初に書きます。
一番大事なのはアナタが描きたいと思った動機です。
なぜ描きたいと思ったのか。
雄大さ、迫力、色の鮮やかさ穏やかさ、形の面白さ珍しさ、奇跡の瞬間だったから、自分だけが分かるマニアックな美しさだったから……など色んな理由があると思います。
それを大事にしてください。
画力があってもなくてもココを手放したら負け、くらいのつもりで完成する最後まで意識し続けてください。
これがブレなければ、アナタの感動は伝わりやすくなります。
②自分だけの感動を大事にする
雄大な富士山を初めて見たら、最初は感動してもすぐに見飽きますし、絵に描いたとしても、他の人は「あ~、富士山ね」で終わります。
絵葉書と似たような構図なら、別に写真で構わない訳です。
アナタ独自の感動を演出でもいいから付け加えないとありきたりの富士山になってしまいます。
例えば富士山を一度も登ったことがないときに描いた絵と、登った後に描いた絵が同じになると思いますか?
別に富士山に限りませんが、モチーフに対するアナタの解釈、想いが絵に表れるものなのです。
アナタの感動はありきたりではないはずです。
ありきたりなら、たぶん描いているうちにモチベーションが下がってきて、途中で投げ出してしまうかもしれません。
アナタがそのモチーフをどう解釈しているのか、どう感じているのかを見つめてください。
それを大事にしながら描いた絵はきっと滲み出てくるものがあるはずです。
画力や構図は二の次です。
2.写真の構図は探すもの、絵の構図は創作もOK
どんなに写実的な技術や画力を持っていても、ツマラナイ構図の絵はツマラナイものです。
風景画の良し悪しは構図で8割が決まります。
画力がなくても構図で逆転できる可能性があります。
構図がツマラなくなる主な理由は以下です。
・主題(テーマ)が分からない
・主役がない、目立つものがない
・あれもこれもと詰め込みすぎ、雑多
・視線誘導ができていない
・ひねりがない日の丸構図
・主役を引き立てる脇役がない
・動きの変化も静けさもない、どっちつかず
・空間の広がりや、奥行きがない
・遠近感や立体感が少ない、感じにくい
・色みの変化がない
挙げるとキリがないのでコレくらいにしておきます。
構図の基本は別記事で解説しているので、時間のある方はご参照ださい。
一つだけ大切なことをココで述べておくと、いい構図はいい視線誘導ができているので、見飽きないんです。
いい絵の定義は人それぞれでしょうが、見飽きないことがいい絵には絶対必要条件だと筆者は考えます。オークションなどで高額取引されるような絵で、すぐに見飽きるような絵はまずないでしょう。
ミレー「落穂拾い」
※風景画ではないですが、視線誘導が素晴らしいのでご参考まで。
では見飽きさせないためにはどうすればいいか?
鑑賞者の視線を捉えて、画面上で隅から隅まで引きずり回せばいいんです。
逆に視線が特定の場所に留まる絵は見飽きます。
話は飛びますが、住みやすい家は動線がしっかり設計されています。
スムーズに移動できるから家事がしやすくストレスが溜まらず、快適に暮らせるようになっています。
絵も同じで視線誘導が上手だとなかなか見飽きることがありません。
話を戻します。
視線誘導でもう一つ大事なことを書きます。
視線が画面の外に流れ出る絵は鑑賞者の集中力も流れてしまいます。
視線が一箇所で動かないのも、外に出てしまうのもマズイんです。
3.その構図は白黒でも面白いか
ゴッホ「プロヴァンスのトウモロコシ収穫」
※下は白黒加工したもの
世界の名だたる絵画を白黒で観てみてください。
画像編集ソフトがあるなら、白黒に加工してみてください。
パソコンに表示させて、スマホのカメラを白黒モードにして撮影してもいいでしょう。
すると、白黒でも名画の素晴らしさが伝わってくるはずです。
自分が描こうと思った風景があれば、まずは白黒で撮影してみることをオススメします。
コントラストやメリハリがないとダメとは一概に言えませんが、そういう場合は色で勝負する必要が出てきます。
4.色やトーンのブロック分けができるか
白黒で撮影してメリハリのない風景の場合、画面全体を色でブロック分けしてみましょう。
例えば、菜の花の黄色いブロック、山々の緑のブロック、空の青のブロックなどです。
その割り振り、面積比をチェックしてみるのです。
トーンにはビビット(派手)、ペール(淡い)、ダーク(暗い)などのグループがあります。
トーンの分かれ目がブロックとなることもあります。
近景はビビットで、遠くに行くほど淡くなったり、薄暗くなったりします。
ブロック分けができたら、その面積比をチェックしてみましょう。
主役のモチーフに必要な面積が過不足ないかという観点で見てみてください。
まとめ
やはり一番大切なのは、描きたいと思った動機と感動です。
ココに書いたテクニックやコツの全部を無視するくらいの勢いとパッションで押し切っても全然いいと思います。
難しいことを考えずに感動をキャンバスにぶつけるのもアリだと思います。
ただ頭の片隅に構図や視線誘導、白黒コントラスト、色ブロックのことを入れておくと、応用力が身につき、いろんな風景に柔軟に対応できるはずです。
(以上です)