絵のお悩み解決

■視線誘導のコツとやり方、視線の流れの癖9選 構図との相乗効果

2021年10月26日

ミレー、落穂拾い、視線誘導
ミレー「落穂拾い」

 

視線誘導とは、絵を鑑賞する人の視線をなめらかに焦点(または主役、モチーフ)へ誘導すること。
それによりテーマをより明確に伝えられるようにすることです。

よって、焦点以外の場所に誘導してしまっている場合や、どれが焦点か分からないという場合は視線誘導に失敗しているということになります。

 

この記事で説明する項目の一覧です。

1.視線誘導のメリット
2.人間の「視線の流れ」の癖9選
3.視線誘導の作品例
4.視線誘導のコツとやり方

 

それでは個別に解説していきます。

1.視線誘導のメリット

・ テーマが伝わりやすい
・ 鑑賞する人がストレスを感じにくい
・ 画面の隅々まで観てもらえる
・ 鑑賞する時間が長くなる

視線誘導は何となくできるものではなく、画家の企みによって意図的に引き起こすものです。
写真みたいに写実的に描いた絵は凄い、上手いと驚嘆されるかもしれませんが、視線誘導や構図を考えていないと、すぐに見飽きるか、違和感を抱いてしまいます。
名画の条件の一つに何年たっても見飽きないというものがあります。

鑑賞者の視線を引きずり回して画面の隅々まで見させる技術は、石膏デッサンを何年やってもできるものではなく、画力とは別の企画力、構想力が問われるジャンルです。
今、画力がないとか絵心がないと嘆いている人は、こちらのジャンルを猛勉強したら石膏デッサンの上手な人にいつか逆転できるかもしれません。
物を正確に写しとるだけが絵ではないので「企みのある絵」「視線誘導と構図がしっかりした絵」を目指してはいかがでしょうか。

 

2.人間の「視線の流れ」の癖9選

①大きなものから小さなものへ
②手前のものから奥のほうへ
③明るいものから暗いものへ
④ハッキリしたものからボンヤリしたものへ
⑤左から右へ
⑥上から下へ
⑦同じ形や同じ色のものを追いかける
⑧線をたどっていく
⑨人が見ている先を見る

①~④はパッと最初に目に入るものから、そうでないものの順で見るという当たり前といえば当たり前です。
⑤と⑥も経験があるので当たり前に感じるかもしれません。
皆さんが元々持っていた癖ですから目新しさは感じないでしょうけど、それをきちんと整理して列挙したということを褒めてください。 ^^;

⑦は例えば地面に鳩が居て、ポツリポツリと手間から奥へと並んでいたら、視線はそれを辿って奥まった所へ誘導される訳です。
後述するスーラの絵では赤い洋服の人が気になって、視線が辿るというより引きずり回されるような感覚になるはずです。

⑧は川や道路、海岸線、山の稜線、木の幹から伸びる枝などが考えられます。
人間の目は線を辿っていくので、その先に何か仕掛けがあると目が釘付けになるかもしれませんね。

⑨絵の中に限らず、人が見ている先は気になるのでつい見てしまいます。
何があるんだろうと辿ってしまう訳です。

 

3.視線誘導の作品例

文字で書いても伝わりにくいと思うので、百聞は一見にしかず、以下を見てください。

1)葛飾北斎「神奈川沖浪裏」

北斎、神奈川沖浪裏、視線誘導

上述した視線の癖をほとんど全部使っていると思いませんか?
どこから見始めても視線は最終的に富士山へ行き着くはずです。
そして、その後じっくりと画面の隅々を見ようとして、手前で船にへばりつくようにしている人たちの表情にどこかおかしみを感じて、くすりとしたり、波の大きさや波頭のしぶきに圧倒されたり、そしてまた富士山へ視線が戻ります。
う~ん、素晴らしい。
海外でも虜になる人が続出するのも納得ですね。

 

2)スーラ「グランド・ジャット島の日曜の午後」

スーラ、「グランド・ジャット島の日曜の午後」、視線誘導

川岸の線に沿って左下から右上に視線が誘導されると、一番奥まった一番気になる所は男女の頭で隠されています。
そこで目のピントが手前に引き戻されて男女の全身を見るようになり、視線は下に誘導されると芝生の鮮やかさが目に入ります。

足元の猿?や犬が左を向いているので、それを辿ると男性が左を見ながら寝ていて、右膝を立てています。
これが矢印みたいな効果を生み出し、視線が上に行くと赤い女性の立ち姿による縦線があって、さらにヨットの白い帆がカーブを描いて、右方向へ視線を誘います。

ぐるっと一周させられると今度は画面の中央やら細部をあらためて見ることになります。
この作品も人間の「視線の流れ」の癖を利用しているのがお分かり頂けたでしょうか。

 

3)ミレー「落穂拾い」
冒頭の画像を再度載せます。

落穂拾い、視線誘導2
ど真ん中で赤い頭巾をかぶっている女性にまず目が留まります。
その女性が見ている先、腕が線となっているので辿ると何かを拾っている手元を見ることになります。
上記の癖⑥の「同じ形や同じ色のものを追いかける」によって、左隣の人の手元に視線が誘導され、左端で上へ持ち上げられると左上で行き止まり、遠くの麦の積みわらが階段状に下がるのに従って中央へ誘導され、右端の前屈した女性の曲線で再び地面へ誘導されます。

このとき2人の間に麦わらが見え、題名を見ずにこの絵を見た人はここで初めて「あ~、落ちた麦を拾っていたのか」と気づきます。
中央と右端の女性の間の曲線が、この絵のもっとも重要なメインストリームです。
ここで落穂の束を見せるのは心憎い企みです。

地面をあらためて見ると大して落穂がないことにも気づきます。
それでも必死に腰を曲げ拾い集めようとする姿は言葉にしなくても貧しさを表しているようです。
ただそれだけではなく逞しさや力強さも感じさせます。

ひと通り地面を見終えると視線は右から上に上がり、何本かの線で右端の女性の頭部に誘われます。

左側2人に比べて中腰の女性は年配のように見えます。
たぶん腰を深く折るのはきついのでしょう。
一見、中央で赤い頭巾をかぶった女性が主役のように見えますが、真の主役は構図的にも、視線誘導的にもこの中腰の女性だと分かります。

この右端の女性は完全に腰を折って拾っている姿勢でも、完全に立っていてもダメなのです。
中腰のおかげで、この絵でもっとも重要な働きをしているのです。

 

4.視線誘導のコツとやり方

風景画で気になるモチーフがあれば、それが焦点(主役)になります。
あとは配置ですが、悩んだら3分割構図を利用しましょう。

三分割構図

画面を均等に分割する線を縦横2本ずつ引いて9マスを作り、その交点である4点のどこかに焦点を配置します。
そして、そこへ向けて川とか道路とか何らかの線が複数あり、すべてが焦点へ集中するようにしましょう。
雲の形を線状にしたら、上からの視線も誘導できます。視線誘導は逆の言い方をすれば、上下左右から線が集中する一点に焦点(主役)を乗せるのです。

人物画の場合、全身なら顔が焦点に、顔だけもしくはバストアップ(胸より上)なら瞳が焦点になります。

モナ・リザ、視線誘導

レオナルド・ダ・ビンチの「モナ・リザ」は目ではなく、口元に視線が誘導されるではないかと思ったアナタは鋭い。
モナ・リザは黄金比の螺旋、すなわち黄金螺旋の終点(螺旋の曲線が一番小さくなる所)が口元に配置されていると言われています。
ダ・ビンチも視線誘導を狙っていたのは間違いないはずです。

 

まとめ

視線誘導の元となる人間の「視線の流れ」のクセ9選を再度載せます。

①大きなものから小さなものへ
②手前のものから奥のほうへ
③明るいものから暗いものへ
④ハッキリしたものからボンヤリしたものへ
⑤左から右へ
⑥上から下へ
⑦同じ形や同じ色のものを追いかける
⑧線をたどっていく
⑨人が見ている先を見る

ミレーの「落穂拾い」の場合、次の順番で視線が誘導されます。
1)ど真ん中の赤い布を頭に巻いた女性にまず目が留まり、
2)その女性の見ている先、腕の先に目が行く
3)似たような腕の形が左にあるので、そちらへ誘導され
4)その流れで画面の端から左上に行く
5)遠景の積み藁が右肩下がりになっているので線をたどる
6)右端の立っている女性に受け止められ、
7)右端の女性が見ている先に誘導され地面へ下りる
8)大して落穂が無いことに気づく(貧しさの比喩、暗喩)
9)地面の左側は先ほど見たので右側へ行く
10)右端の女性の上半身や地面にある線の指す方向で画面の上部へ誘導される

こんな感じで画面の隅から隅へと視線を誘導されまくっている訳です。
しかも8)で落穂拾い=貧しさを言葉でなく、きちんと視覚で訴えていることに成功しています。

う~ん、やっぱり凄いですね。
計算し尽くされてる感じがします。
人間の視線の流れのクセは覚えておいて損はないですよ。

 

補足
視線誘導だけで素晴らしい絵になる訳ではありませんが、知っておくと便利ですし、何よりテーマが伝わりやすくなります。
構図のテクニックと組み合わせたら、さらに効果的です。
試行錯誤しながら、習得してください。

 

        (以上です)

 

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