人間には右脳と左脳があり、それぞれ得意な分野を持ち、役割分担しています。
前回の右脳トレーニング①逆さ描写は観察力を上げるためのトレーニングを紹介しましたが、今回はモチーフの面で捉える練習です。
この記事で説明する項目の一覧です。
1.左脳の出しゃばりと、それを抑える意義 |
それでは個別に解説していきます。
1.左脳の出しゃばりと、それを抑える意義
右脳は図形処理や創造性などを、左脳は論理や計算などを担っています。
しかし絵を描く行為は右脳だけでする訳ではなく、左脳との共同作業であることが分かっています。
うまく連携できればいいのですが、初心者の方は左脳が出しゃばってしまい、詳しく見るのを妨げられて、固定観念や思い込みで図形を描かされてしまいます。
例えば、チューリップと言われただけで、輪郭は思い浮かぶはずです。
自動車でもパンダでも、すぐ輪郭は想像できるはずです。
そのため思考停止になり、それ以上詳しく観察できなくなってしまうのです。
いや、観察を続けているよと思うかもしれませんが、目の網膜に映っていてもそれ以上、処理されないのです。
左脳が「分かってるって。こんな感じでしょ」と決めつけて、それを描かせてしまうからです。
ところが左脳が前例主義で処理できない描き方をすれば、出しゃばりが抑えられて、右脳がフル稼働を始めるのです。
その1つの例が以下のトレーニングです。
2.線なし描写(塗るだけ描写)の概要
初心者の方は、立体物の何かを鉛筆などで描写するとき、大雑把に言えば、以下の手順で描いていると思います。
①まず輪郭線を描いて、
②次に細かい部分の線を引いて、
③それから陰影をつけるように塗っていく
この線なし描写では、①と②を省略してもらいます。
いきなり塗るところから始めるのです。
線を帯にするように塗るのではありません。
線や帯を引く(描く)のではなく、面で塗るのです。
そもそも物体には輪郭線という黒い線は実在しません。
形を掴みやすいし、塗りやすいから勝手に引いているだけです。
輪郭線を引けなくなると、嫌でも濃淡を詳しく観察せざるをえなくなります。
これが線なし描写の意図であり、目的です。
3.線なし描写の手順、やり方
参考)面取りデッサン用の石膏像
(右はコントラストを強めに加工したもの)
では実際のやり方を説明します。
1)用意するもの
リンゴかボールなどの球体。芯が1cm以上出るように削った2Bくらいの鉛筆。
鉛筆は芯を長く出すために木の部分は2cmくらい削ります。
→削り方をさらに知りたい方は別記事をご参照ください
→「鉛筆の削り方(デッサン用) 初心者向けコツと理由も解説」
2)鉛筆の持ち方
紙に置いた鉛筆を4本揃えた指と親指で、上から指先でつまむように持つ。
芯が紙に当たる面積が最大化されるように(芯の側面がなるべく長く接するように)鉛筆を倒して、優しく少しずつ塗るようにします。
3)全体的に薄っすらと塗る
輪郭線を使わず、だいたい似たような形になるように全体を薄っすらとした灰色で塗る。
例えばリンゴなら、大雑把に丸になるように、薄い灰色で塗ります。
4)消しゴムで消して輪郭を生む
輪郭に相当するところは消しゴム(または練り消しゴム)で消して境目を浮き上がらせます。
ココが肝です。
これまでは線で輪郭を描いていましたが、ココでは消すことで輪郭をあぶり出すのです。
薄い灰色で塗った形が、だいたいでいいのでリンゴの形になっていればOKです。
5)明・中・暗の3ブロックに分けて、塗る。
光源は左上か右上になるように配置したほうが描きやすいでしょう。
光の当たっている部分は「明」になるので3)で塗ったのを活かし、何もしません。
反対側は「暗」になるので濃いめに塗り、中間の部分が「中」になるので3)で塗った状態に少し足すように濃くします。
ブロック分けが終わったら、それぞれの部分をさらに明中暗で塗り分けます。
大きな「暗」の中にも小さな明中暗があるはずです。
6)鉛筆は最初から最後まで寝かせたまま使う。
鉛筆を立てると局所的に濃くなってしまい、全体的に同じ濃度で薄っすらと塗るというのが難しくなります。
薄く塗るのを何度も繰り返し、少しずつ濃くしていきましょう。
輪郭線は意地でも引かないという覚悟でやってください。
明中暗がグラデーションになるように、境目がハッキリしないように塗ったり、濃すぎたときはポンポンと叩くように消したりして調整します。
7)仕上げ前のチェック
明るい所が多いリンゴの場合、明中暗の「明」の部分は半月が膨らんだ形になっているでしょうか。
「暗」の部分は黒い三日月の形になっているはずです。
逆光になっているリンゴの場合、「明」の部分が三日月、「暗」の部分が半月の膨らんだ形になっているはずです。
途中で、つい線を引きたくなると思いますが、グッと我慢。
ひたすら面と明暗だけで描いていくと、嫌でも細かく観察するようになります。
まとめ
線なし描写のトレーニングは、理屈脳である左脳を抑えて、右脳をフル稼働させる練習でもあるので、最初は疲れるかもしれません。
線ではなく、面と明度で見る練習は石膏像のデッサンにステップアップしたときも使えますので、まずは簡単な形の物から練習してみてください。
補足
リンゴやボールの輪郭線に相当する所に目を近づけて見てみてください。
幅1ミリくらいの微妙なグラデーションがあって、曲面が向こう側へ消えているはずです。
最初からコレを描くのは難しいでしょうけど、頭の片隅に入れておくだけでも立体感が違ってくるので、ココで覚えて帰ってください。
(以上です)