ポール・セザンヌ「The Large Bathers」
※三角構図の一例:背景の大きな三角だけでなく、右下と左下の人の塊もそれぞれ三角形になっています。
さらに大きな三角形の向こうに遠景もしっかり描かれているので額縁構図ともいえます。
(前編はコチラ)
絵の構図の一覧27種類の後編です。
※基本的で代表的な構図は前編で解説しています。
構図とはモチーフまたは色の配置、画面の構成であり、視線を誘導し、テーマを伝える仕掛け、骨組みのことです。
今回はアルファベット構図と、複数の構図を使った組み合わせ構図、すべてに共通するコツと考え方です。
それではアルファベット構図から解説していきます。
【2】アルファベット構図
17.A構図(山形構図、三角構図)
三角構図との厳密な違いはありませんが、三角構図は画面の中で三角形が完結している場合や、横の三角、傾いた二等辺三角形などバリエーションが多いのに対し、A構図は画面の下辺に接しているものをとくに呼ぶようです。
安定感と、頂点に向けた躍動感、伸長感を表現できます。
※エッフェル塔
人や高層ビル、東京タワーなどに近づき、アオリで見上げると迫力のある構図になります。
18.C構図
曲線構図と似ています。
厳密に分ける境目もありませんが、曲線構図は風景画などの大きなモチーフが主に使われるのに対し、こちらは小さなモチーフでリズム感があるように使うという方法があります。
テーブル上の食器の曲線、コップやロウソクが曲線になるように置かれていたり、布の起伏やうねりなど、複数のものがC状に曲がっていると楽しさや賑やかさも表現できます。
以下はちょっと珍しい、人物画にC構図を使った例です。
セザンヌ「赤いチョッキの少年」
19.H構図
画面の両端に強い縦線が2本あって、間に何らからの横線がある構図です。
横線は水平線や地平線が使われることが多いようです。
地平線といっても、別にモンゴルの大草原とかの本格的な地平線である必要はなく、田んぼと山の境目とか、横線を感じさせるものであればOKです。
縦線は人だったり、木や家、ビルなど色んなパターンが考えられます。
アオリの角度で、下から見上げると2本の縦線の対立構造というのもできますが、別に左右の縦線が同じ高さでなくても構いません。
木と家が何となくの縦線になって、真ん中付近に横線を感じさせる線があればH構図になります。
20.K構図
例えば、左側に駅のホームや壁があり、右側に中央の消失点から右上がりの電線、右下がりの線路があればKの字になります。
左から3分の1の場所に人を配置して、右側3分の2を使って、右上がりと右下がりの線があれば、広がりと動き、そしてまた視線が3つの線の交点である人に戻るという効果もあります。
Kの字の3つの直線が集まる点にモデルさんの顔を重ねるように配置すると、視線誘導にもなります。
奥行きを表現するときによく使われる構図です。
21.L構図(縦線、横線構図)
強い縦線と水平線などの横線で構成される構図です。
左から3分の1の所に人を配置すると三分割構図になりますが、こちらのL字構図はさらに左端に寄せるパターンが考えられます。
この場合、大空間が人の右に空くので、モデルさんは右方向を見てもらうと空間の広がりを上手く使えます。
逆に左を見ると、息苦しさ、緊張感と空疎感が出てきますが、大きな空間の処理が難しくなり、上手くやらないと持て余すことになります。
ちょっと珍しい、近景の人物画にL構図を使った例です。
ベラスケス「ヴィーナスの化粧」
22.N構図(縦線、対角線構図)
強い縦線と対角線のある構図です。
2つのモチーフ(人やビル)の立つ間に対角線らしき線があるパターンです。
別に2つのモチーフが立っている必要はないので、何らかの平行線の間に斜めの対角線を感じさせる線があるパターンもあります。
対角線が水平線に収束すると奥行きを感じさせます。
23.S構図
風景画で奥行きを表す王道の構図です。
曲がりくねった川、道路、山道の階段などが考えられます。
C構図が一度しか曲がっていないのに対し、こちらは複数回も曲がっているので、より強く近景から遠景への流れを感じさせます。
こちらはテーブル上でも使える構図であり、数の多いモチーフを何となくS字っぽくなるように配置して、奥のものほど重なるようにすれば、奥行きや遠近感を表現できます。
24.∨構図(A構図の逆)
ビル街の空は∨字型になっているはずで、開放感と不安定感、動きを表すのに向いています。
逆三角形構図との厳密な境目はありませんが、∨字が途中で切れないように画面の端に届くようにすると、より強く訴えることができます。
25.X構図(2本の対角線構図、遠近法構図)
クロード・モネ「Rue de la Bavole, Honfleur」
放射線構図とも似ていますが、こちらは正面奥の消失点から対角線のような線が伸びており、強さを感じさせます。
遠近法構図とも呼ばれ、渓流や道路を低い位置から見ると、両岸や両側の建物の線が対角線を構成することがあります。
上下左右の角から中央の奥に収束していくので、何らかの特徴的なモチーフが中央付近にあると映える構図です。
26.Y構図
①4つのモチーフのうち、2つを左右に、残りの2つを縦に配置する構図。
逆Y字もあります。
例えば、リンゴ2個を縦に配置して、少し小さめのミカンを2個左右にY字になるように配置します。
Y 字も逆Y字も、縦に配置した2つのモチーフが主役で、左右は脇役になるように少し小さくするのがコツ。
上手く配置すれば、視線が主役に集まるように誘導できます。
静物画のときだけでなく、人の配置の参考として使える構図です。
例えば芝生の公園を描くとき、人を配置することになると思いますが、単純なY字ではなく、斜めにしたY字にすれば画面全体の動きが出てきますし、奥行きと広がりも表現できます。
②左右の対比と、上に抜ける∨構図の組み合わせとしても考えられます。
ビル街など都会で見つけやすい構図です。
木の幹が分かれしている様子や、もっと近づいて、例えば枝が分かれている様子と新芽が膨らんでいる様子を描くことで、春の息吹やエネルギーを表現できます。
27.Z構図(ジグザグ構図、N構図の横版)
①別名、ジグザグ構図。
モチーフをジグザグに配置して奥行きを出す構図。
画面は縦位置で使ったほうが、より奥行きを表現できます。
②N構図の横版。
水平線と斜線、手前の近景という組み合わせが考えられます。
三分割構図の中央の帯に斜線、例えば尾根や稜線などあり、手間に花畑、奥には遠い山々の水平線というパターンです。
水平方向だけの3分割だと単調になるかもしれないし、斜線構図だけでは動きは出せても単調という場合に使えます。
上手く使えば、安定感と動きのいいとこ取りができる構図です。
【3】組み合わせ構図の例5選
1.三角+放射線構図
大きな幹を下から見上げて、放射状に広がる枝たちのパターンが考えられます。
大きな幹は下が太く、上にいくほど細く見えるので三角形になります。
放射状に広がるものを見つけたら、三角に該当するものを探してみましょう。
安定感とエネルギーの解放を表現できます。
2.二分割+S字構図
地平線で二分割して、地平線より下にS字の曲線を配置します。
空の広がりと大地の奥行きを表現できます。
またテーブル上でも使えます。
テーブル上にカップやリンゴなどを何となくS字に配置します。
テーブルの上端を二分割線にして、その上に空間や窓を置けば、開放感が生まれます。
3.二分割+対称+放射線構図
パリの放射状に広がる道路の中心部の高い位置から見た場合、水平線で二分割され、建物を境に左右対称になり、道路が放射状に広がっています。
また木々の並ぶ中に太陽があり、木漏れ日が放射状に広がっている場合は、木々の上端で空と二分割する線ができて、太陽を中心として左右対称の構図が生まれます。
普通の放射線構図の場合、収束している所、線の集まっている所は水平線(消失点)になることがほとんどなので、二分割する線が見つかり空間を空けられるなら試す価値があります。
4.日の丸+二分割構図
日の丸構図は素人が何も考えずに配置した構図と思わがちなので、ひとひねりする必要があります。
ただし魅力的なモチーフがあって、それをなるべく大きく描きたいときは一番テーマを訴えやすい構図でもあります。
Photo by Werner Sidler on Pixabay
どうしても中央にドンと描きたい主役のモチーフがあったとき、背景に水平線を設定する二分割構図を使うことで、工夫の後を表現できます。
水平線以外であれば、建物と道路の境目にモデルさんに立ってもらって、縦の二分割にするという方法もあります。
上記のビーチに立つ女性の画像の場合、水平線と頭が重なっているので、嫌でも視線はそこに誘導されます。
これはこれでいい画像だと思うんですが、写真撮影の世界では首の辺りに水平線が重なっているのを首切り構図と呼ぶそうなので、水平線がもう少し下のほうにあれば、もっとよくなるのかもしれないですね。
5.日の丸+トンネル構図
画面の中央にモチーフを置いて、四隅に申し訳程度でも木々や葉っぱなどでトンネルらしきものを作ると、ちょっとした演出になります。
トンネル構図は額縁構図ともいいます。
丸いものでモチーフが囲まれていればトンネル構図、それ以外の四角などで囲まれていれば額縁構図と呼び分けることもできます。
いずれにせよ、囲っているものと中央のモチーフとの間に距離がある場合、それを実際に現場で見たとき、人間はピント合わせが大変ですので、ものすごく奥行きを感じる訳です。
うまく使うと、秘密めいたものを覗く感覚が味わえます。
【4】すべてに共通するコツ、考え方
①視線誘導を意識する
どこに鑑賞者の視線を誘導したいのか、先にハッキリさせましょう。
その設計をしないまま描き始めると、どんなに画力があっても片手落ちになります。
テーマがボンヤリとしているとか、落ち着かないとか、長く観ていられないなどの感想が寄せられることになりかねません。
その際に、視線が外に流れ出ていないかチェックしましょう。
視線誘導が外側に行ってしまうと、当たり前ですが鑑賞者の興味や関心も流れてしまいます。
②勇気をもって空間を空けよう(余白を作る勇気)
空間や余白は余韻に繋がります。
初心者のうちは余白が怖くて、ゴチャゴチャと詰め込みたくなりますが、そこをグッと我慢して思い切って空けてやると、言葉では表現できない空気感、雰囲気が生まれます。
すべて説明している小説やドラマが面白くないのと同じです。
勇気と意図をもって空間を空けましょう。
(以上です)