アクリル絵の具の基本 絵のお悩み解決

陰と影の違い、描き方(前編)

2022年1月7日

レンブラント、夜警
ルーベンス「夜警」

陰と影はどちらも「かげ」と呼びますが、意味が違います。
例えば床に置いたボールがある場合、陰はボールの光に当たっていない暗い部分で、影は床に投影された黒い部分です。

 

この記事で説明する項目の一覧です。

1.陰について
1-1.陰の特徴
1-2.陰の機能

2.影について
2-1.影の特徴
2-2.影の機能

 

それでは個別に解説していきます。

陰について

1-1.陰の特徴

1)曲面はグラデーション、多面体はグラデーションを簡略化したもの
初心者の方はどちらも三段階で変化させるつもりで描きましょう。
陰の中にも明中暗の三段階があるという考え方です。
厳密にいえば、もっと多段階の明度の描き分けが必要ですが、まず三段階をしっかりさせて、その後で中間を描き分けるという考え方です。

 

2)陰の一番濃いところでも黒ではない
例えば、顔の一番くらいところを黒でベタッと塗ると、そこだけ凹んだように見えることがあります。
肌の色に黒や補色を混ぜて、明度を落とすほうがより自然な陰の色になります。

色相環、補色
※ちなみに補色というのは色相環(色を円状に並べたもの)の反対側の色のことです。
肌の色はオレンジ色を白っぽくした色が多いので、黒を混ぜるより補色である青や青紫を混ぜたほうが、自然な感じの陰を作れます。

 

3)床に近いところは反射光がある
リンゴでもボールでも、面のあるものを床に置いたとき、直接光が当たっていない陰の部分に着目すると、床に近い所はぼんやりと横長に明るくなっています。これは床に当たった光が反射してモチーフに当たっているためです。

一番床に近いところは一番暗くなっていますが、その少し上は反射光が当たり、薄っすらと明るくなっています。
これを描き込むことにより、さらに立体感が増します。
デッサンのときは口を酸っぱくして指導されるところでもあります。

 

1-2.陰の機能

①立体感には欠かせない
球でも円柱でも明るい部分と陰の部分があるおかげで立体的に見えます。
これが無いと単なる円や長方形に見えてしまいます。
人物画でモデルさんを正面から描くのが難しいのは、立体感を出す手段となる陰の部分が限られるからです。

ゴッホ、帽子をかぶった農夫の顔
ゴッホ「帽子をかぶった農夫の顔」

光源やモデルさんの向きを変えて、正面ではなく斜め方向から光を当てると、側面も見えるのでより立体的になります。

 

②表情に深みを与え、感情を表す
例えば三歳児くらいのかわいい子が満面の笑みを浮かべているとします。
このとき光源が向こう側にあり、顔が逆光になっているとしたら、どうでしょうか。
顔の輪郭だけ明るくて、顔の中央部分が陰になり暗くなっているとしたら……、なんだか怖くないですか。
表情と陰が矛盾しているので、違和感があるはずです。

小さな子でこれですから、大人の笑顔だと何か企んでいるのかと不安になります。
心と顔がチグハグな感じです。

また陰影は寂しさや辛さを表すのにも有効です。
アナタは以下の絵から、描かれた人々のどんな表情、感情を読み取りますか?
だいたいからして寂しさとか辛さとか、そんな単純な言葉とは違う感情を表現できるからこそ絵画ですよね。

ゴッホ、ジャガイモを食べる人々
ゴッホ「ジャガイモを食べる人々」

 

③舞台装置にもなる
スポットライトは周りが暗いから機能するのであって、全体的に明るいと意味をなしません。
光の当たっている場所の引き立て役として陰、もっと言えば闇があるのです。

レンブラント、夜警
レンブラントの通称「夜警」
正式な作品名は「フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊」

 

闇は深ければ深いほど、悲しみや恐れを倍増させる効果があります。

ルーベンス、キリスト昇架
ピーテル・パウル・ルーベンス「キリスト昇架」

 

ゴヤ、1808年5月3日、黄金分割構図
フランシスコ・デ・ゴヤ「1808年5月3日」
蜂起した丸腰のマドリード市民をナポレオン軍が銃殺しようとする場面

 

④奥行きの演出にもなる
まず、以下の作品を見てください。

フェルメール、兵士と笑う女
ヨハネス・フェルメール「兵士と笑う女」

手前の兵士は日陰にいて、中央の女性は日向にいます。
さらに奥は少しの日陰があり、壁はまた明るくなっています。
いずれも窓が作り出した明暗なのですが、手前から順に暗→明→やや暗→明、と交互に表れることで奥行きを感じさせます。

単に明→暗、または暗→明という2層構造だけでもある程度の奥行きは表現できますが、明と暗の4層構造にすることで、物語的な重層構造を感じさせます。

さらに暗い男VS明るい女という対立構造もあります。
対比ともいいます。
女性の笑顔は嬉しさや楽しさに溢れています。
一方の男性は目とこめかみくらいしか見えませんが、笑っているようにも楽しそうにも見えません。

背景の世界地図が暗示する外の世界を女性に話して聞かせているのでしょうか。
表情の明と暗という対立構造は心理的な奥行きも感じさせます。

 

※長くなったので、後編に分けます。

 

                (つづく

 

-アクリル絵の具の基本, 絵のお悩み解決

© 2024 アクリル絵の具で自由画人