ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「聖母被昇天」
※右は白黒加工したもの
※う~ん、白黒でも凄い。カラーはさらに圧倒されます。
絵画を構成するのは線と形、そして色と明暗です。
構図を決定するのも線や形、そして色と明暗です。
この中の色についてですが、色は輪郭線を描いた後の面積を埋めるだけの役割ではありません。
色によって構図や遠近感、そして感情を表現することもできます。
色の役割について掘り下げてみましょう。
この記事で説明する項目の一覧です。
1.色で構図を操る |
それでは個別に解説していきます。
1.色で構図を操る
①ぼんやりとした色の変わり目
絵画の中にくっきりとした線でなくても、色の変わり目が何となく線となり、構図を構成することがあります。
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー
「雨、蒸気、速度」
この絵は史上初の「スピード」を表現した当時の衝撃作です。
それまで絵画は線をクッキリと明瞭に描くものという「常識」があり、それを打ち破ったという意味でも衝撃作でした。
一見、ぼんやりとした絵に見えますが、放射線構図により視線は中央から左奥に誘導され、光によって上へと持ち上げられ、機関車へ下りてくると力強くこちらに向かってくる迫力を感じます。
おそらくターナーも機関車の迫力に圧倒されたからコレを描こうと思ったのでしょう。
スピードと迫力というテーマをうまく伝えられています。
②色やトーン(色調)、明暗の対比で主役を引き立てる
ティツィアーノ・ヴェチェッリオ「聖母被昇天」
一番上が神、中段が聖母マリアと天使、下段が使徒たちになっています。
水平方向、上中下の三分割構図です。
着目したいのは聖母と使徒2人が赤い服を着ており、三角形を構成しているということ。
このことから三角構図ともいえます。
底辺の広い三角形ではなく、上に向かう矢印みたいな三角形にも見えます。
さらに三角形の向く先、聖母マリアの見る先に視線が誘導されると、神の左肩には三人より深みのある神秘的な赤いマントが見えます。
視線誘導のゴールが神様になっているということは、一番伝えたいモチーフ、テーマは神の尊さともいえます。
中央に描かれた聖母マリアが分かりやすい表の主役なら、真の主役は神様と言えるのかもしれません。
2.色で遠近を操る
①色彩遠近法
暖色系(赤系)は進出色といって、手前に出てくる印象を与えます。
寒色系(青系)は後退色といって、暗く、奥まった印象を与えます。
例えば、どうしても手前に寒色系、奥に暖色系のものを描かざるをえないときは、手前の青系を明るくして、奥の赤系を暗めに着色して、鑑賞者を混乱させないようにしましょう。
②空気遠近法
空気が光を拡散する性質を利用して遠近を表現する方法です。
例えば、山々の連なりが横方向でなく、奥行き方向に折り重なっているとき、手前は緑で描き、奥に行くほど青みがかり、最後は空気と交じるように灰色がかった青にすることで自然な遠近感を表現できます。
→「空気遠近法の詳しい記事はコチラ」
③ナチュラル・ハーモニー
ナチュラル・ハーモニーとは自然界に一般的にある配色のことです。
光の当たるところは黄色がかり、陰のところは紫色で沈んでいるように見えるということです。
絵の具における黄色と紫はチューブから出したままの純色どうしでも、黄色のほうが明度は高くなっています。
自然界の黄色はただでさえ明度が高いのに光が当たるとさらに明るく感じる訳です。
これに逆らって、紫色や青の明度を上げて、黄色を暗くした場合は自然界になかなか無いパターンであり、人間は見慣れていません。
なので、どちらが手前にあるのか分からなくなってしまいがちです。
自然の配色には逆らわないほうが無難です。
3.色で感情を操る
これはだいたい想像がつくと思いますが、色のイメージ、心理効果のことです。上記の暖色系、寒色系もその一つです。
色に対するイメージは人それぞれの部分もありますが、一般的なものを列挙してみます。
色相環の時計回りで書きます。
黄色…喜び、元気、軽快、希望、注意
緑……安定、落ち着く、安らぎ、恐怖
青……知的、賢い、冷静、悲しみ、孤独
紫……高貴、妖艶、神秘、不安、嫌悪
赤……情熱、パワー、興奮、怒り、血
白……純粋、潔癖、空疎、軽い
黒……頑丈、強固、拒絶、重い
印象派の穏やかな色彩、宗教画のドラマチックな明暗の中で使われる赤や、フェメール「真珠の耳飾りの少女」の青いターバンなど記憶に残る色彩がありますよね。
ふと思ったんですが、青いターバンが白や赤、緑だったら、ここまで有名になっていたでしょうか。
もし別の色にしてというオーダーが来たら、アナタなら何色にしますか?
もしくは当時のフェメールが高価すぎる宝石ラピスラズリの青を切らしていて、別の色で塗らざるをえなかったとしたら、何色で塗っていたでしょうか?
1分間でいいから、ちょっと考えてみてください。色彩感覚が磨かれますよ。
(以上です)