ポール・セザンヌ「リンゴとオレンジのある静物」
静物画(せいぶつが)とは、静止した食べ物や器、道具などを描いた絵。
動かないものという意味では静止した人物や風景も該当しそうですが、こちらは人物画、風景画として区別されます。
広い意味でいえば、どこに置かれたものでも対象(モチーフ)が静止したものであれば構わないですが、多くはテーブル上に配置されたものが描かれます。
この記事で説明する項目の一覧です。
1.静物画の始まり |
それでは個別に解説していきます
1.静物画の始まり
静物を対象に描くのは紀元前からありましたが、静物画として広く描かれるようになったのは17世紀のオランダからといわれています。
それまではギリシャ神話や宗教画、貴族の肖像画が主で、一部のお金持ちがパトロン(スポンサー)となっていたため、一般市民の目に触れる機会が限られていたのです。
それが宗教改革と市民階級の所得向上と絵画制作コストの低減により、一般市民の手の届くものになりました。
静物画の他にも風俗画(庶民の生活を描いた絵)なども盛んに制作され、実際に市民の方々の家に飾られるようになりました。
2.なぜ静物画だったのか
主に2つの意味があります
①家に飾って彩りを添える
②画家の技術を明示できる
それぞれ説明します。
①家に飾って彩りを添える
1つ目は一般市民が家に飾るために買っていたのですから、飾りたくなるようなものが描かれていないと売れません。
どんなものにニーズがあったのかというと、季節のもの、高価なものです。
季節のものというのは例えば、冬でも眺められる夏や秋の果物、野菜などがあります。
写真のない時代ですから、豊穣を表すものが家にあれば、心も豊かになったはずです。
アドリアーン・コールテ
「Shells on a Stone Plinth」
一方、高価なものというのは買えないけれど見て楽しみたい花や貝殻などです。
昔は切り花は簡単に変える値段ではなかったようですし、南国で採れるようなキレイな貝殻は簡単に海外旅行できる時代ではないですのでかなり高価だったようです。
②画家の技術を明示できる
ピーター・クラーズ「七面鳥パイのある静物」
2つ目の画家の技術を明示できるというのは、画家の名刺代わりになったということです。
静物画は奇抜なモチーフを描く訳ではないので、パッと見は似たりよったりな訳です。
風景画はいい光景であればいい絵になる場合もありますが、静物画はモチーフではごまかしがきかないので、技術の差が表れます。
ガラスの透明感や金属の光沢などを写真以上の精密さで描き表しているものもあり、思わず息をのむ美しさと緊張感があります。
いい技術を明示できれば、大きな予算の絵の注文が舞い込むことも期待されていた訳です。
3.静物画を描くときの配置と構図、コツ
初心者の方はまずは品数1点で描いて、何枚も描くうちに物足りなくなったら、品数を増やしていくことをオススメします。
1点から増やすなら、次は3個がいいでしょう。
安定感があり、配置の勉強にもなります。
静物画を描く上で押さえておきたい構図やコツを解説します。
アンリ・ファンタン・ラトゥール
「Asters and Fruit on a Table」
※モチーフはたくさんありますが、全体として三角構図になっています。
① 3点モチーフ
この言葉があるくらいですから、多くの先人がこれを基礎練習として繰り返してきました。
全体をひと固まりの物として見えるように中央に程よく集めて、なおかつ全体が三角形(ピラミッド型)になるように配置するのです。
これは構図の基本でもある三角構図と同じであり、安定感と落ち着きを感じさせてくれます。
例えばワインボトルなど背の高いものを中央に配置し、手前の両脇に残りの2点を配置すれば、全体として三角形が完成します。
この記事の冒頭のセザンヌの作品「リンゴとオレンジのある静物」は、よく見ると小さな三角形がいくつかあって、それらを組み合わせると大きな三角形になっていたりします。
答えはあえて書きませんので、ご自身で探してみてください。
そのほうが自分なりの発見ができるはずです。
②重なる部分
3点しかモチーフがないと重なる部分は限られるかもしれませんが、重なる部分が全く無いと前後の位置関係が伝わりにくいので、鑑賞者に混乱を与えてしまいます。
やや上から見下ろせば、前後の位置関係は分からなくはないのですが、どこか間延びしたというか、抜けた感じがするものです。
極端な例ですが、メロンとスイカを水平方向から見た場合、スイカをずっと奥に置けば、見た目はメロンと同じ高さになります。
そうなると小さなスイカなのか、奥に置いているのか区別がつかず鑑賞者は混乱してしまいます。
万が一、本当にメロンと同じ直径のスイカなら、メロンの手前に置いて一部が重なるようにすれば、鑑賞者は「あ~、小玉スイカなんだ」と分かってくれるはずです。
でも、そんな紛らわしいものをモチーフとして選ぶ必要あるのか疑問ですが ^^;
③余白も大事
3点モチーフを配置するときは、塊としての三角形も大切ですが、余白も大切です。
見切れてないか、余白が大きすぎたり小さすぎたりしてないか、画面の左上と右上の余白は形もしっくりくるかチェックしましょう。
④左右のモチーフに変化をつける
左右のモチーフが似たような大きさなら、どちらかを少し手前に置くと、動きが出ます。
静止画なのに動きというのは変な言い方ですが、面白みと言い換えてもいいでしょう。
左右の2つが均等に横に並んでいるとツマラナイ感じがするかも、ということです。
⑤主役はどれ?
3点すべてにスポットライトを当てたように描くのか、どれか1つをさらに詳しく描き込むのか、決めて描いたほうが主役と脇役という意味合いが出てきて、面白みが増します。
練習なので3点とも全部詳しく描くというのも構いませんが、主役と脇役というのを頭の片隅に置いて描くのも1つの演出となります。
(以上です)