絵のお悩み解決

■写真を見ながら絵を描いてもいい?

2021年10月25日

写真を見ながら描く

「写真を見ながら絵を描いてもいい?」
この質問は2通りの解釈ができます。以下の2つです。

1)他人の著作物を見ながら描いて著作権侵害にならないかという質問
2)実物があるのに写真を見ながら描いて、絵の練習になるのかという質問

このように質問の意図が全く違います。
前者は著作権侵害になりますし、今回の記事のテーマから外れるのでココでは解説しません。
(一言だけ解説すると、練習目的で誰にも見せないならOK、ネットなどで公開したらアウトです)

今回のテーマは後者です。
実物が目の前にあるのに写真を撮って、それを見ながら描いていいのかという質問ですね。
結論から先に言います。
「大丈夫です、ただしデメリットも理解した上で」ということになります。

写真を見ながら描くことの是非や、メリット・デメリットを解説します。

 

この記事で説明する項目の一覧です。

1.写真を見ながら描くことのメリット・デメリット

2.写真を見ながら描きたくなる理由、状況
1)限られた時間では完成させられないから
2)太陽が移動し、陰が変化するから
3)写真を白黒加工して、明暗を掴みたいから
4)目で見る情報に自信がないから

3.写真に頼って描く人の例

 

それでは個別に解説していきます。

1.写真を見ながら描くことのメリット・デメリット

①メリット……動くものなどの一瞬を切り取れる等
これは次項の「写真を見ながら描きたくなる理由、状況」で詳しく説明するので、ココでは割愛します。

 

②デメリット……絵が平板になる、情報量が少ない絵になる、観察力が伸びない
写真に撮ってしまうと「3次元であるモチーフの2次元化」という作業も勝手にやってくれるので、楽な訳です。
楽をしたら成長の糧にならないのは当然です。
例えば、石膏像のデッサンの場合、上級者は輪郭線の向こう側まで描くつもりでいるので、自然な曲面を表現できます。
でも写真だと単なる明暗のグラデーションになってしまっているので、情報量が減ってしまっています。

もう少し例を挙げます。
上級者が描いた石膏デッサンを見ながら模写すると「もの凄く」楽です。
もう答えがそこにある感じです。
質感や陰影の捉え方は、その上級者が分析してくれている訳です。
自分が上手くなったように勘違いしてしまいます。
次に実物の石膏像を見ながら描くと「アレレ、こんなはずじゃ……」となります ^^;

 

2.写真を見て描きたくなる理由や状況

まずどんなケースがあるか、挙げてみましょう。

1)限られた時間では完成させられないから
2)太陽が移動し、陰が変化するから
3)写真を白黒加工して、明暗を掴みたいから
4)モチーフが写真でしか見られないから
5)自分の目で見る情報に自信がないから

 

それぞれ解説しましょう。

1)限られた時間では完成させられないから
①外出先のスケッチでもっと描き込みたいから
外出先で風景画をスケッチするには速描きのテクニックがあります。でもそれでは満足できず、もっと精密に正確に描きたいとき、写真を撮って、家などでみっちり描き込むことになると思います。
アクリル絵の具がいくら速乾性だといっても、やはり一枚の風景画を精密に描こうとすると半日では足りないときも多くなります。

さらに雲の様子などは刻々と変化するので、気に入った状態の雲や空があれば、写真を撮って残しておきたくなるはずです。
極端な例ですが、虹を記憶だけで正確に描ける人は稀でしょう。

②人物画の場合、モデルさんの都合があります。
お友達やご家族にモデルを頼んだ場合、親しい人でも長時間の拘束は厳しいですし、そもそも動かずにじっとしているのは意外と体力のいるものです。
先方もいろいろ用事があって忙しいでしょう。
そういうときは写真を撮って、それを見ながら描き込みをするしか仕方ないということになります。

ちなみにプロのヌードモデルの撮影は厳禁です。
限られた時間で描ける範囲の精密さで描くしかありません。
あとは脳裏に焼き付けるしかないですね。

③モチーフに動物などの動くものを選んだ
ペットがかわいくて、描きたくなる気持ちは分かります。
また動物園で見た動物はその日のうちに描かなくても、後日まったく別の設定(例えばアフリカの大地に居る設定)にして描きたくなるかもしれません。
そういうときは写真で記録しておきたくなりますよね。

④静物画のモチーフに生モノ(花や果物)を選んだ。
花なら萎れる前に、果物なら痛む前に描き上げたいものです。
とくに花は何日も同じ状態というのはないので、一日で完成できなければ、写真を撮りたくなるでしょう。

 

2)太陽が移動し、陰が変化するから
屋外だけでなく、室内画でも南窓であれば太陽の位置で、影の差す方向は刻々と変化していきます。
北窓であれば、一定の方向から光が入ってくるので安心ですが、それでも強弱は変わります。

 

3)写真を白黒加工して、明暗を掴みたいから
目でみると、細部とその周辺の明暗に気を取られて、全体の中でどれくらいの明度で描けばいいのか混乱してしまうときがあります。
そういうときは白黒で撮影するか、既にあるカラー画像を白黒加工すれば、全体の中の位置づけ的な明るさと暗さがはっきりしてきます。

 

4)モチーフが写真でしか見られないから
海外の絶景を描きたいと思ったら、その都度わざわざ現地に行ける人は稀でしょうから写真に頼るしかありません。
名画の模写も本当は美術館で実物を見ながらするのが理想ですが、現実には難しいので写真に頼ることになるでしょう。

 

5)自分の目で見る情報に自信がないから
初心者のうちはこれに該当する人が多いかもしれません。
実物は写真より情報量が圧倒的に多いのです。
色や形だけでなく、質感、存在感や空気感、周囲の光の色と量、射す方向などの要素がたくさん有り過ぎて、混乱してしまうことがあります。
その点、写真に撮ると情報が整理されて、描くべきことがハッキリしてきます。
また近視や遠視の方などは、写真に撮れば拡大して見られるというメリットもあり、目で見て気づかなかったことを発見することもあります。

 

3.写真に頼って描く人の例

昔、絵画教室に通っていたときに、また聞きした話です。
まあまあ上手な生徒さんが写真を見ながら描くのに慣れてしまって「もう実物を見ながらでは描けなくなってしまった」と言っていたそうです。
どこまで高いレベルを目指すかにもよりますが、写真に頼りすぎるとこういうケースも有り得る訳です。

 

次に筆者の体験談です。
人物画のモデルになってくれる人がなかなかいなくて、ネットで見つけた画像を元に鉛筆デッサンをしまくっていた頃の話です。
やっとモデルになってくれる人が見つかって、いざ描こうとしたら情報量が多すぎて、消化不良を起こしてゲッソリした記憶があります。 ^^;

もう生身の人間の存在感と迫力って凄いんですよ。
普段の生活や会話ではとくに感じませんが、いざ描くとなるとオーラというか気というか、何かが出てるんです。

石膏デッサンとも違う存在感と迫力をなんとか二次元に落とし込んで表現したいと四苦八苦しました。
生身の人間ってスゲーなと痛感した訳です。
それからは周りの人に頼み込んで、短時間で描くタイプのデッサンをさせてもらいました。

 

まとめ

この記事で説明した項目の一覧を再度載せます。

1.写真を見ながら描くことのメリット・デメリット
2.写真を見ながら描きたくなる理由、状況
1)限られた時間では完成させられないから
2)太陽が移動し、陰が変化するから
3)写真を白黒加工して、明暗を掴みたいから
4)目で見る情報に自信がないから
3.写真に頼って描く人の例

メリットとしては写真を撮らざるをえない動きの速いもの、その場で長時間は描けない場合などがあります。

デメリットで最大のものは、3次元のものを2次元化する作業をしなくなるので、その練習にはならないということです。
写真を見ながら描くとモチーフの存在感や迫力、質感などの情報が激減するのを理解した上でやるしかありません。

野外スケッチしていると分かりますが、家で仕上げるために写真に撮ると、ぜんぜん色が違ってきます。
理由は露出のせいです。
人間の目は暗い所を見るときは瞳孔が開き、明るい所を見るときは瞳孔が小さくなります。
写真は全体の平均的な露出でシャッターが下りるので、部分部分ごとに調整はしてくれません。

ズームしてパーツごとに撮影すれば多少はよくなりますが、全体としてのバランスがおかしくなります。
なるべく現地で描いたほうが生き生きとした色の絵になる一因です。

 

追記
西洋絵画の巨匠たちもカメラが発明されてからは利用していたらしいので、一概にダメと決めつける必要はありません。
便利なものは利用して構わないのです。
ただし頼り過ぎると平板な絵になるし、観察眼を鍛えるためには自分の目で観ることが必要だと理解しておくことが大切です。

 

               (以上です)

 

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