結論を先に書きます。
アクリル絵の具を他の絵の具と混ぜるのは慎重に、重ね塗りは順番によってはOKです。
「混ぜる」というのはアクリル絵の具と他の絵の具を物理的に混ぜて使うことで、
「重ね塗り」はアクリル絵の具が乾いてから別の絵の具を上書きすること、または先に別の絵の具を塗った後にアクリル絵の具で上書きすることを指します。
※もしお探しの情報が「混色」や「混ぜて色を作ること」でしたら、別記事で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。
→「混色 色の作り方の基本とコツ、裏技も」
他の絵の具と混ぜる話に戻します。
混ぜたくなるのは絵の具を切らした場合がまず考えられますよね。
重ね塗りするのは水彩絵の具やポスターカラーで描いてる途中で修正したくなった場合などが考えられます。
いろんなパターンがありますので、整理しながら解説します。
この記事で説明する項目の一覧です。
1.水彩絵の具の上にアクリル絵の具はほぼOK |
それでは個別に解説していきます。
1.水彩絵の具の上にアクリル絵の具はほぼOK
水彩絵の具で描いた絵の修正や、ハイライトとして白を上書きしたいとき、アクリル絵の具を重ね塗りするのはほぼOKです。
水彩絵の具とアクリル絵の具はアルカリ性どうしなので、なじみやすいです。
ただし、メーカーによる違うもあるので絶対ではありません。
逆に、アクリル絵の具で塗った上に水彩絵の具で重ね塗りするのはNG です。
プラスチックの上に水彩絵の具で塗るようなものです。
いったんは乗っても、時間がたてば剥がれやすくなります。
2.アクリル絵の具と他の絵の具類を混ぜる場合
①水溶性の絵の具の場合
結論を先に書きます。
長期保存を考えてない場合や、完成した後は野となれ山となれという場合なら、水彩絵の具やポスターカラーと、アクリル絵の具を混ぜるのはアリだと思います。
数日で化学変化や剥落は考えにくいです。
水彩絵の具とアクリル絵の具を混ぜて使うのは同じ水溶性だし、アルカリ性どうしなので反発しあうことはないですが、発色や耐久性の不安が残ります。
ポスターカラーも同様です。
水彩絵の具にアクリル絵の具のチタニウムホワイト(不透明)を混ぜると覆い隠す力があるので、多少の重ね塗りならできるようになります。
ただし長期保存を考えると不安も残ります。
大抵の場合、水彩絵の具とアクリル絵の具を混ぜても、その場で拒絶反応らしきものが起きる訳ではありません。
しかしだからといって、将来にわたって大丈夫とは言い切れません。
どうしても水彩絵の具とアクリル絵の具を混ぜなければならない必然性があるなら仕方ないですが、そうでなければ慎重に判断すべきです。
アクリルガッシュとアクリル絵の具は混ぜるのはOK、重ね塗りはどちらが先でも後でもOKです。
大雑把に言ってしまえば、アクリルガッシュとアクリル絵の具の違いは顔料(色の素)の割合が多いか少ないかの違いだけですので、相性がいいんです。
昔はメーカーが異なると相性がよくないこともあったみたいですが、最近は大丈夫なようです。
ただし全てのメーカーや製品で試した訳ではないので理屈上は大丈夫、という程度に考えておいてください。
②油絵の具の場合
油絵の具とアクリル絵の具を混ぜるのはNGです。
そもそも水と油なので混ざりません。
むりやり混ぜても結局は分離するのでやるだけ無駄です。
3.アクリル絵の具の下書きの上に油絵の具はOK
アクリル絵の具がしっかり乾いた後なら、油絵の具を上塗りしても大丈夫です。
油絵の具はプラスチックやガラス、陶器にもわりと乗ってくれるので、表面が完全にツルツルしていなければ、その後の定着も大丈夫なようです。
厚塗りのアクリル絵の具をドライヤーで乾かして、すぐに上塗りするのは止めたほうが無難です。
表面は乾いていてもアクリル絵の具の内部に水分が残っていると、後で水と油が反発する可能性があります。
薄塗りのアクリル絵の具なら、ドライヤーでしっかり乾かせば、わりとすぐ上塗りできる状態になります。
油絵の具の下書きを油絵の具でせずに、わざわざアクリル絵の具を使う理由は以下です。
油絵の具で下書きすると乾くまで1週間ほどかかります。
アクリル絵の具ならドライヤーで乾かせば数分間で描ける状態になります。
この待たなくていいというのは助かる人には大きな要素だと思います。
筆者は油絵を描くとき、まず鉛筆で下書きをして、その上にかなり薄めたアクリル絵の具で上塗りします。
鉛筆の上に直に油絵の具を乗せると混ざって濁ってしまうからです。
アクリル絵の具で薄っすらとカバーをかける感じです。
カバーをかけて、鉛筆と油絵の具が触れないようにして、その後しっかり描きこんでいきます。
4.油絵の具の上にアクリル絵の具はNG
先に油絵の具で描いて、その上にアクリル絵の具で描くのは油で弾かれるのでNGです。
油絵の具の上にアクリル絵の具を重ね塗りして大丈夫なように見えても、時間がたつと油が弾くので結局は定着しません。
アクリル絵の具の下地の上にはOKなのに、なぜ油絵の具が先だとNGなのかと疑問に思う方むけに補足します。
油絵の具は1週間もすれば表面が乾いて重ね塗りできるようになりますが、中まで完全に乾くには1年くらいかかると言われています。
乾くというのは実は正確ではなくて、固化というのが正確な言い方になります。
油が蒸発するのではなく、酸素と結合して固まるということです。
酸素に触れている表面は固化しやすいですが、内部まで固化するには時間がかかり、それまではジワジワと油が滲み出てくるので、油絵の具の上にアクリル絵の具などを乗せると弾いてしまうという理屈です。
5.アクリル絵の具の上に他の絵の具類はNG
アクリル絵の具で先に描いた上に、インク、鉛筆、木炭、パステル、水彩絵の具などで描いても、あまり定着しません。
プラスチックの上にこれらの画材で描いても定着しないのと似ています。
想像してもらうと分かりやすいですが、プラモデルの上にインクや鉛筆などで塗るようなものです。
いったん塗れたとしても時間がたてば剥離します。
アクリル絵の具は乾くと耐水性になり、表面も堅牢になりますが、いかなる絵の具も受け付けるということではありません。
一番定着するのはアクリルガッシュですが、その他の絵の具に関して定着するか否かは、実際にやって試してもらうしかありません。
あ、でもクレヨンはわりと乗るかも。
スクラッチアートのとき、アクリル絵の具で先に色をつけて、その上にクレヨンの黒で塗りつぶして、引っかくやつですね。
クレヨンは粘着性があるので、わりといけるようです。
6.他の絵の具類の上にアクリル絵の具は△
すべてのメーカー、製品で試した訳ではないので参考程度にしてください。
パステルの上にアクリル絵の具で塗るのはOKです。
ただしパステルは粉に近いので多少は溶けたり、塗りつぶされてしまう場合が多いかもしれません。
色鉛筆は水彩色鉛筆ならOKですが、蝋(ろう)や油の入ったタイプは弾かれるのでNG。
インクは滲んで汚くなる可能性はありますが、アクリル絵の具で塗りつぶすのであればOK。
クレヨンはメーカーや製品によって、できたりできなかったりです。
蝋や油が入っているクレヨンはアクリル絵の具を弾きますが、スクラッチアートの際にアクリル絵の具の黒で塗りつぶすことができるのもあるみたいなので、製品によりけりのようです。
まとめ
ざっくりまとめてしまうと、以下です。
①他の絵の具類とアクリル絵の具を物理的に混ぜる場合
・油絵の具+アクリル絵の具はNG
・水彩絵の具+アクリル絵の具は△
・アクリルガッシュ+アクリル絵の具は○
・他の絵の具類+アクリル絵の具は止めたほうが無難
②重ね塗りは順番による
・アクリル絵の具が先、油絵の具で上書きはOK
・油絵の具が先、アクリル絵の具で上書きはNG
・アクリルガッシュとアクリル絵の具はどちらが先でもほぼOK
・他の絵の具類が先、アクリル絵の具で上書きはだいたいいOK
・アクリル絵の具が先、他の絵の具類で上書きはあまり定着しない
補足
ロウソクなどの蝋(ろう)で線をランダムに引いて、その上にアクリル絵の具で抽象画みたいに塗ると、蝋の部分は弾かれるのでそこだけ定着しません。
これはこれで面白いマチエール(質感)になるので、わざとやるという使い方があります。
クレヨンや色鉛筆でも同じようなことができます。
かすれたような感じにしたり、雨や雪の代わりにしたりアイデア次第で使い方は広がります。
アクリル絵の具は自由な画材なので、いろいろ試して、いろいろ失敗してください。
失敗を楽しむくらいで、ちょうどいいかもしれません。
そのうち誰も到達しなかった使い方を発見するかもですよ。
(以上です)